「バーボンを
〜男には信じられるものが要る〜(ミスター・ノーボディ/1974)
姿勢、飲み方、所作。
Barでお酒を嗜む際には「良し」とされる「型」があります。
例えば、カウンターには肘をつかず、背筋は伸ばして、グラスはなるべく下を持ち、などなど。
「今は、法と秩序がある」(赤い砂の決闘/1963)。
しかし、それが必ずしも全てのケースにおいて最良の選択であるとは限りません。
時としてBarでは「型」よりも「美学」が、あるいは「流儀」が、優先されることもあるのです。
その代表が「バーボン」です。
「世の中には二種類の人間がいる…」(続・夕日のガンマン〜地獄の決斗〜/1966)、
バーボンを「
かつて私がバーボンを飲んでいた際、ある先輩にこう言われました。
「バーボンは手首で
感銘を受けた私は以降この教えを守りバーボンを
今回はその内容を紹介いたします。
が、しかし、
あくまでもこれは私の流儀でありスタイルですので、どこのBarでも歓迎されるとは限らない旨ご了承ください。
「信じるのもいいが、疑う方がより賢い」(増える賞金、死体の山/1973)。
〜命も張れば、意地も張る。それが男というものさ〜(続・さすらいの一匹狼/1965)
今回はバーボンのストレート限定で話を進めます。
まず姿勢です。
バーボンを
なぜならバーボンは「そっち方面のカッコイイ酒」でなくてはならないからですそうなんです。
椅子には浅く座り、やや前傾となるようにしつつ、両肘をカウンターにつけてこれを支えるようにします。
背中を若干丸め、首からして頭もうなだれるように下げつつも、それでいてカウンターにカブさり過ぎないように注意し、
だらしなくならない程度の丁度いいヤサグレ感を演出してください。
カウンターの極力手前に肘をつけるよう意識すれば、そうみっともない感じにはならないはずです。
いつ賞金首や悪徳保安官が来ても咄嗟に立ち上がり動けるよう、基本的に足は組みません。
普通にお行儀よく座り、お尻で体を支えるよりも体重の分散が難しく、
ダラリとしている風であるのにむしろ思ったよりもくつろげないでしょうが、
そこは我慢です。
ポジションが定まったらオーダーですが、いくら無頼を気取るにしてもBarの飲み手としてのモラルは忘れないように。
横柄な態度、荒れた言葉遣いでただの輩にまで成り下がってはカウンターに居る資格もありません。
と、ここで気をつけなければならないことがあります。
グラスです。
最近のBarでは、それがバーボンであってもウイスキーのストレートを注文すると、
ステム、俗に足付きと呼ばれるテイスティング向けの洒落たグラスに注がれる場合があります。
いけません。
バーボンのストレートはショットグラスでなければならないのですそういうものなのです。
「聞くのは勝手だが、答えはしない」(夕日のガンマン/1965)。
左がショットグラス、中と右がステム(足)付きのテイスティンググラス
もしもバーテンダーが足付きのグラスを準備するなんて野暮をしたらバーボンを注がれる前にこう言ってやりましょう、
「おいおい、そんな細い足じゃ荒野を渡りきれないしウエスタンブーツも似合わない。俺が頼んだのはバーボンだぜ?」と。
怒られたら謝ってください。
ショットグラスが無い場合は小ぶりなオールドファッションド(ロック)グラスでも構いません。
それもまた素敵です。
目の前にバーボンたゆたうグラスが運ばれたならいよいよ
基本的に両肘はカウンターにつけたまま、左腕(右利き前提)はカウンターと胸と並行になるよう、
肘から曲げて支えの役割を維持させます。
このカウンターの上の左腕をまたぐように右腕を、やはり肘をつけたまま、
動かすのは前腕部のみとしながら手首を内側に90度曲げてグラスの真上まで移動させ、
人差し指・中指・親指の三本の指でヒョイと摘まみ上げるように持ち上げます。
基本姿勢(※写真準備中、画像は仮のものです)
通常Barにおけるグラスの扱い方となると、なるべく下を持つことがセオリーとされていますが忘れてください。
ここで重要なのは手首の角度だけであり、他にはせいぜいリボルバーの残弾数ぐらいを気にしておいてもらえれば結構です。
手首をしっかり曲げておかなければ後の実飲が困難になりますし、お猪口よろしくお上品にグラスを持ったのでは、
せっかくバーボンを目の前にしながら、そのワイルド属性を殺してしまうことになりかねません。
その理想的な手首の形だけならば蟷螂拳のそれを参考にしていただくとして、
しっかり曲がった良い手首
実際にやってみるとお分かりでしょうが、しっかり手首を曲げたままこれをキープしつつグラスを扱うのは意外と容易ではありません。
慣れないうちは変な力みが生じるでしょうし、特に肝心の手首周辺には、これは慣れたとしても意識的な力が必要です。
ですが、あくまでも傍からは、力無くうなだれ、かろうじてグラスを持ち上げているように見えなければならず、
間違っても「あぁ、この人ガンバッテいるのだなぁ」などと悟られてはいけません。
しっかり力んだまま全力で脱力を演じて下さい。
続きまして、有る無しに関わらず、何かこう悲しい想い出的な過去とかを浮かべている風な表情を作っていただければなお良しとして、
グラスを口元に運び、手首の返しだけでグラスを傾けて酒を流し込みます。
一気に飲み干すことはありません。
いえ、むしろチビチビと舐めるようにで結構です。
なるべく顔は動かさず、手首の返しだけで飲む。
これは非常に難しく、慣れないと上手く口に酒を運べずこぼしてしまう可能性があります。
ましてやスムーズと言える速度と落ち着きを持って実践しようとなると、ますます慣れが必要です。
慣れてください。
手首を傾けてチビリ。
手首を傾けてチビリ。
動かすべきは手首だけであることを常に意識しながら。
これがまさに「バーボンは手首で
二・三クチに一度ぐらいの割合で一旦グラスをカウンターに置き、以降はこれを繰り返します。
そして、これでグラスが空になるという最後の一クチは、
カウンターから両肘を離し、体全体を大きく反り、天井を仰ぐように顔を上げてグラスを逆さまにする勢いで飲み干しましょう。
空になったグラスをカウンターに置くと同時に何処かへ旅立つような、
まるでこの一杯に何か大きな決意が込められていたっぽい感じでグラスを空けたなら、
後はカウンターにコインを投げ、ドアを鳴らして店を出て、
表に繋いでいた愛馬に颯爽と跨り、アイツへの想いを振り払うかのように荒野を駆け抜けてもらっても良いのですが、
別になにかしらの決意が無くとも本当に席を立たなくてもいいですし、おかわりしても結構ですどうぞごゆっくり。
〜夢を見るのもけっこうだ、ただし、目を開けて見ろ〜(豹・ジャガー/1968)
以上が私の知るバーボンの
くだらないこだわりに思われるかもしれませんが、私はこの教えを気に入っています。
「俺を殺すには俺の許可が要る」(新・夕日のガンマン〜復讐の旅〜/1967)。
だがしかし、
全般を通して最も重要なのは、一連の動作・演出を、
あくまでも「さり気なく」行うことです。
さらに言えば目立ってはなりません。
此れ見よがしに振る舞い、バーテンダーを含めた他人の注目を求めてカウンターで遊ぶなど愚の骨頂です。
他者まで巻き込む勢いで溢れ出した押し付けがましい美学ほど迷惑な行為もありません。
けれども、己の中に美学を持つことで酒が美味くなるのもまた事実です。
これはバーボンに限った話ではありません。
許される範囲の中、アナタの想うグラスに、アナタなりの美学を、流儀を、
どうか探してみてください。
Barがもっと楽しくなりますから。
与えられた手順でただ飲まされるのか?、己の納得した方法で意志を持って飲むのか?、
どうするかはアナタの自由であり、決めるのはアナタ自身なのです。
「俺はフェアな男だ」(暁の用心棒/1967)。