エアーのコンディション
バーテンダーの仕事はお客様をもてなすこと。
なればこそ、それにふさわしい空間と環境を用意することも重要な業務となります。
ドリンク作成の修練や勉強、ホスピタリティーの追求には気が回っても、
それらを提供し、実際に過ごしていただく店内の状態については、しっかり清掃しておけばそれで良し、
と、思考が固まってないでしょうか?
快適な空間で時間を過ごしていただくためにできること、
万全の商品管理に欠かせないこと、
今回は特に、目に見えないながらも店内に満ちるそれ、「空気」についてのお話です。
「まずは知る」
人が快適と感じる温度と湿度については個人差や地域差、さらに季節による違いがあり一概に断言できません。
一般的にはおよそ温度15℃〜27℃・湿度35%〜60%の範囲内であると言われています。
最終的には自分の判断で「基準」とする数値を決定しなければなりませんし、
最悪、その場その場でお客様の「暑い、寒い」に合わせて室温調整すれば良さそうなものですが、
バーテンダーとして考えるなら、これに加えて業種的特徴、
つまりBarとは、調理場にして給仕スペースという特異な空間であることを忘れてはなりません。
店内は酒を主とした商品を保管するという意味で、一つの「セラー」です。
しかもそこにある商品とは多くの場合開封済の状態であり、
温度・湿度の管理に失敗すれば、たちまち商品の劣化に直結してしまいます。
それら全てを踏まえつつ、数多あるデータを持ち出し、考察しても良いのですが、
各店舗によって物理的な要因も異なることから、
ご自分なりの最大公約数は皆様それぞれで見つけていただくとして、
参考までに私が実践している数値を言いますと、
年間を通し、「温度25℃・±2℃以内」「湿度50%・±10%以内」を基準として定めています。
いずれにせよ、これを実行するには、エアコン、除湿機、加湿機は必須のアイテムであり、
まず何よりも今時、温度・湿度計が無い、店内のそれを計測したことが無いなど、
私的には有り得ないことと考えます。
「温度」
店舗内で実際に過ごしている限りでは、さほど気にせずとも快適な温度を維持できそうなものですが、
問題が発生しやすい盲点で言えば閉店後、無人となった店内の状態にあると言えます。
寒暖の差です。
ほとんどの店では気にすることもないのですが、
特に夏場、窓のある店舗や立地的に日中の気温が上昇しやすい場所にある店舗などは、
営業中に冷房で冷やされた空気が閉店後急激に上昇し、
主な症状としてボトル内の結露など、極めて深刻な劣化要因が発生しかねません。
コスト的な負担も増加するため決断は難しいでしょうが、
お客様に傷んだドリンクを提供することのないよう、
今一度現状を把握し、必要とあれば正しい判断をしていただくようお願いします。
「湿度」
多くのBarで気にされていないカテゴリーです。
あくまでも個人的な経験に基づく印象ですが、特にコルク栓を用いたボトルです。
湿度40%を下回るような店内では、劣化が発生しやすくなり、
30%を切るようであれば、もはやフタの役割さえ成さないと思います。
同時にコルクのクラッシュやラベルの浮きなども多発します。
それでなくとも冬場になるとやけにボトルとコルクが密着を越えて引っ付き、開封しづらいようであれば、
いよいよ湿度計を用いて、一度しっかり計測し、必要となれば対処してください。
また、逆に夏場など、高すぎる湿度のためにカビの発生を原因とする臭い移りなど、
ボトルを棚の中で保管しているケースでは発生率も高いため注意が必要です。
さらにお客様のための快適度という観点からも、
決して少なくない割合で、冬の乾燥、夏のジメジメを気にされる方はいらっしゃいます。
特に女性は湿度に敏感です。
取り分け乾燥は従業員も含め、健康上の見地からも多くの問題を含んでいます。
適切な湿度調整が実現できれば冷暖房の熱効率も上がります。
日本家屋が木(柱・家具)・土(壁)・草(畳)・紙(フスマ・障子)という調湿作用素材を多用した造りであるのに対し、
Barの多くは洋風の、それも業務用にコーティングされた様式の構造である場合がほとんどで、
よほどに恵まれたケースを除けば、ほとんどの店舗で何かしらの対策が必要なはずです。
「風」
人が飲料を口にする際、最も望ましいとされるのは「そよ風」より少し優しい程度の微風状態だそうです。
店内を極ゆるやかに空気が対流しているのが理想でしょうか。
エアコンは天井埋込み式や家庭用に近い壁に据え付けるタイプなど、ヴァリエーションは様々でしょうが、
特に小さな店でよくあるのが、設置場所から客席までの距離が近いポイントが存在し、
直風に近い状態で一部のお客様に我慢を強いるケースです。
「すみません、この席は風が直接来ますので。」
よく聞く台詞ですね。
風よけルーバー等で対処しましょう、いい道具がいくらでもあります。
また、逆に店内が広い、天井が高いといった場合に起きやすい室温のムラについては、
サーキュレーターなどを使って対処すれば、冷暖房効果も向上し、コスト的にも助かるので積極的に導入したいところです。