輸入柑橘系フルーツの表面処理



最近では様々なフルーツが手軽に購入できるようになりましたが、

昔から変わらずBarに欠かせない果物といえば「レモン・ライム・オレンジ・グレープフルーツ」の四大柑橘類でしょう。

レモンに関しては国内産も身近になってきたとは言え、

コストと安定供給の観点からも多くを輸入物でまかなっているというのが現状ではないでしょうか。

となればこれらに欠かせないのが表面処理という使用前の「仕込み」になる訳ですが、

あまりにも多くのBarでこの作業がおろそかにされています。


輸入柑橘類に共通して問題視されるのがいわゆる「ポストハーベスト問題」です。

各原産国でも日本でも国内流通に回される場合には認められていない、収穫後のフルーツに農薬入りワックスで加工を施すという処理を、

なぜか輸出するそれらに関してのみは許されるという荒業です。

レモンを例に少々詳しく説明すると収穫されたレモンはまず塩素剤のプールに漬けられ、

次にこれをアルカリ系洗剤で洗い、殺菌作用のある薬品をかけてからいったん冷蔵倉庫に入れられます。

さらに出荷時、防かび剤の入ったワックスでコーティングをされ我々の元に届くわけです。

ちなみに使用される薬剤のうち代表的なものには枯葉剤の主成分としても使用されていた「2.4−D」、

発がん性防かび剤の「オルトフェニルフェノール」、催奇形性のある防かび剤「チアベンダゾール」などがあります。



一連の工程はコストダウンのため船便で輸送される商品が、長く厳しい旅路の間に傷まないよう行われるわけですが、

これをそのまま使用して良い訳が無いのは先の説明でお分かりいただけると思います。

そしてこれらを軽い水洗い、あるいはそのまま手をかけず使用しているBarでは、

購入したフルーツは2・3日どころか傷さえなければ結構な間痛まないと思っている。

フルーツの匂いなんてカットしなければそうは出ないものだと思っている。

あるいは遊離したワックスがグラスに付着して取れない、などの現象に身に覚えがある人も多いでしょう。

特にこのポロリと剥がれたワックスがグラスに付着するような状態のフルーツを使用しているというのは問題です。

それはつまり、有害な農薬を含んだ、そもそも口にすることを想定されていないワックスなどという本来お客様に、

いえ、お客様で無くとも決して飲ませてはいけないようなものが浮遊している状態のドリンクを提供している、ということにほかなりません。

バーテンダーはバーテンダー以前に、人様に飲食物を提供する調理者として安心かつ安全な商品提供に努める義務と責任があります。



では、具体的な表面処理の方法ですが、まず流水にさらし粗塩を研磨剤代わりに用いて全体を磨き擦るように、

しかしながら決して傷つけぬよう慎重かつ丹念に洗います。

次にお湯を沸かしその中に先のフルーツを投入し20秒程度つけ、引き上げたら氷水に落とし、

すぐに熱をとった後、さらに流水にさらしながらブラシなどで磨き洗います。

厳密に言えば目に見えない薬品までは確実とは言い切れませんが、

少なくともこれでほぼワックスとそれに含まれる農薬など、目に見える有害なコーティングは除去できます。

しかし、本来言ってはならないのですが、以上のような工程は正直面倒だしやってられないというのが本音という人も多いでしょう。

駄目です。

そんなことでは駄目なのですが、そんな人のためにもう少し手軽な方法も一応・・・。

食器洗い洗剤を使ってタワシでしっかり洗ってください。

フルーツを洗剤で洗うと言うとイメージ的に拒否反応を示す方も多いでしょうが、

そもそも市販の食器洗い洗剤の用途には野菜・果物・食器・調理器具等の洗浄用と記載されており、

それらを洗っても差し支えない、人体への影響も考慮された成分で構成されていますし、

なによりそのままだとそんなものよりよっぽど強力な薬剤が残ったままになってしまうわけですから、

この方法ならそれほど手間ではないでしょうから是非に実践してください。

実践をしてください。

さらにこの方法では、もしまだワックスが落ちきっておらず、洗剤によって中途半端に溶かされたワックスが残っていた場合、

触るとネチャっとした感触が処理を施す前よりさらに感じられるので確認も容易です。

もちろん、洗剤は無香料のもので用途に適したものを推奨しますし、

タワシはそれ専用のものを用意し、洗う際は表面を傷つけ洗剤が染み込んでしまわぬよう配慮しつつ、軽く・細かく・でもしつこく、

と、あたりまえに注意すべき点がいくつかあることは言うまでも無いでしょう。

手軽、とは言いましたが楽で簡単という意味ではありません。


最後にグラスに付着してしまったワックスの処理についてですが、あらためて本来そのようなことがないように努めておくのが当然なのです。

しかし、それでも起きてしまった場合、これはミクロ単位で言えば凸凹で柔軟性に富み、比較的剥がれやすいフルーツの表面に比べ、

滑らかで硬質なグラスの内面に付いてしまったそれを落とすのは大変です。

そういった観点からも果皮にあるうちにワックスを処理してしまうのが賢い選択と言えるでしょうが、起きてしまったからには放置はできません。

そこで活躍するのが「界面活性剤成分」主体のクリーン剤です。

スプレーで使用する液体のものなど様々な種類がありますが、クリーム状のもので少量づつ布にとって磨くタイプのものがお薦めです。

ホームセンターの清掃関連コーナーなどで購入できるでしょう。

界面活性剤の利点は頑固なワックスを除去できることはもちろん、グラスを傷めることなく、きちんと洗い流せば人体にも影響のないことです。

仮にも人様が口をつける器を扱うわけですからそういう配慮を忘れてはなりません。


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