メジャーカップ「を」量る


Barには欠かせないバーツールの一つ、「メジャーカップ」。

特にカクテル作成の工程を辿っても最初に用いる道具であり、まずはこれが正確に使えなければ話になりません。

逆に言えばこの最初の段階でミスをしてしまえば、後の工程を完璧にこなせても全てが台無しになってしまいます。

とても重要なアイテムなのです、が、しかし、

メジャーカップをちゃんと理解し使いこなせているバーテンダーがどれほどいるか?

現状、これは非常に大きな疑問です。

このツールは扱い一つで大袈裟ではなくお客様との信頼関係にも影響を及ぼす重要アイテムでもあります。

道具は使いこなせて初めて意味を成す。

メジャーカップを正しく理解し、「モノにして」ください。



当店でやけに人気の「ガラス製メジャーカップ」。



メジャーカップと言えばステンレス製の物が一般的ですが、どうと言うことの無い、

単にそれがガラスになっただけで、ちょっと変わってると、本当にそれだけのことですが、

それでお客様に喜んでいただけるのならと比較的使用頻度も高めです。

使うのはもっぱらウイスキーやスピリッツのストレート、またはオーバージアイス(ロック)の場合に限定していますが。

なぜでしょう?

当店での一杯売りの基準は30mlです。

が、銘柄指定でストレートやロックという飲み方を希望されるお客様というのは、飲み慣れてらっしゃる方も多いですし、

正直、作業自体も手間が掛からない分すこしオマケしてあげても良いかな、と。

そこで件のメジャーカップですが、写真手前の物は15ml/30mlと記されてますが、メスシリンダーで正確に量った30mlを移してみると、

実際はこの通り。



満タンまで注げば約35mlの計量が可能です。

ちょっとオマケに最適ですね。

逆に言うと癖が強いので、特にショートカクテルの作成には用いません。

と、こういうことです。

メジャーカップとは確かに計量するための道具です。

しかし、これを使えば目的の分量になる、記された「ml」になってくれるというものではありません。

あくまでも任意の分量を注ぐのが目的であり、その手段として用い確認を得るための道具である、と、

ここをはき違えているバーテンダーが非常に多いのです。

わざわざ難解な説明で事をややこしくする必要はありませんね。

早い話がメジャーカップは正確ではない、ということです。

試しに手元にあった30mlと表記されているいくつかのメジャーカップに、正確に計量した30mlの水を注いでみましょう。

結果はご覧の通り。



ちょっと判りやすく線を引いてみましょう。



左奥から時計回りに「やや少なめ」「溢れんばかり」「やや少なめ」「かなり少なめ」「ほぼすり切れ」に注いで30mlです。

最近はカップ内にラインを施してあるものや、正確な計量が可能であると謳ったメジャーカップもありますが、

果たしてそのラインの、あるいはカップのどこまで注げば表記してある分量となるのかは、

やはり一度、メスシリンダー等の正確な計量を可能とする器具を用いて確認してみなければ判りません。

試しに、比較に使用したメジャーカップの内、最も容量の小さかったものにやや少なめで注ぎ、

最も大きかったものを表面張力で液体が盛り上がるまで注いでその差を量ってみたところ、

24mlと36mlという、実にその差は12mlという結果になりました。

なぜかメジャーカップは表面張力を用いて使用すれば、否、しなければ正確な計量を成しえない、

と盲目的に信じ込んでいる人も多いですが、その限りではありません。

漠然と使用していたのでは、すでに30mlを量るための道具であるという存在意義さえ忘れてしまいそうです。

百歩譲ってカクテルの作成は割合で調合するため対比が判ればミリ単位の数字は関係ないとしても、

一杯売りでお出しする、先の例のようなストレートやロックの場合はどうでしょう?

多い分にはまだ良しとしても、現状明らかに少ない量のそれを、メジャーカップに一旦注いだからという作業だけをもって根拠とし、

当店の一杯は〇mlでございます、としている店が多いのは事実です。

私個人の体験では、その扱い方も大いに関係していたのですが、あからさまに30mlよりは20mlに近い量で、

「ウチは一杯30mlですよ」という店に遭遇したこともあります。

おかしな話ですよね。

ウチの一杯は30mlです、これは30mlが量れるメジャーカップです、これを用いて注いだそのグラスには30mlの酒が入っています、

と、30mlを保障する状況証拠はこれだけ揃っているのに、肝心の30mlはどこにも存在しない。

ケチで言ってるのではありません。

お客様は前提としてバーテンダーを信用してくださっているのです。

バーテンダーがそう言えば疑うことなく信じていただけるでしょう。

その気持ちを裏切り結果的とは言え、これに嘘で答えるようではバーテンダー以前に仕事として成立してません。

知りませんでしたではプロ失格です。

まずは自分の使用するメジャーカップのどこまで注げば何mlとなるのかを知ること。

これが判らなければ、それはただのカップです。

その手にあるバーツールをいつまでも名ばかりのメジャーカップとしておくか、本当にメジャー機能のあるカップとするかはあなた次第。

それが出来てからでなければ、いくら綺麗な所作をもってして扱ったところで全く無駄な動作でしかなく、意味すらないのですから。


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